名古屋高等裁判所 昭和26年(う)46号 判決
本件起訴状には被告人が単独にて(イ)昭和二十五年七月九日愛知県中島郡稲沢町下津新田東三宮田畯一方において同人所有の自転車一台及白米三斗を窃取し、(ロ)同月十日同県一宮市藤塚町一の一番地加藤とく方において同人所有の南京米一斗七升女向セル黒地一重着物長襦袢を窃取した事実の外六回の窃盗の事実を訴因として掲記し更に本件追起訴状には被告人が原審相被告人小島秀夫と共謀の上(イ)昭和二十五年七月八日頃同県中島郡稲沢町下津新田東三宮田畯一方において同人所有の中古自転車一輛、白米約三斗を窃取し(ロ)同月九日頃同県一宮市藤塚町一丁目一加藤とく方において南京米一斗七升女向セル着物一点を窃取した事実の外三回の窃盜の事実を訴因として掲記しあるところ原審第三回公判調書によれば検察官は右起訴状の(イ)(ロ)の訴因を撤回する旨の陳述をなし相手方はこれに対し異議なき旨を述べ原審はその訴因撤回を許容する旨を宣した上判示第一として被告人が単独にて前示起訴状の(イ)(ロ)以外の六回の窃盗事実(原判決第一明細表参照)を又判示第二として原審相被告人小島秀夫と共謀して前示追起訴状の(イ)(ロ)を含めた五回の窃盗事実(原判決第二明細表参照)を有罪と認定していること及び前示起訴状の(イ)(ロ)について判断を与えていないことが明かである。
而して前示起訴状の(イ)と追起訴状の(イ)前示起訴状の(ロ)と追起訴状の(ロ)とは各同一の事実と思われるのであるがその何れかの断定は暫く措き仮りに夫々同一事実とすれば右起訴状の(イ)(ロ)に対して審判せず又右追起訴状の(イ)(ロ)を有罪としたことは違法であるとせねばならない尤も既に記載したように原審は右起訴状の(イ)(ロ)について検察官の訴因撤回の申出を許容しているのであるが凡そ訴因の追加、変更、撤回は同一公訴事実で数個の訴因が構成し得る場合その相互間においてのみ許されることであり本件のように異別の公訴事実の訴因が数個存する場合にその一の訴因の撤回ということは許されずかかる場合審判の対象にすることを欲しない訴因は公訴取消の方式によらねばならず従つてその公訴取消とこれに対する公訴棄却の決定がなされぬ限り訴因撤回の申出並びにその許容に拘らずその訴因は依然として審判の対象として繋属するのであるから本件の場合において右起訴状の(イ)(ロ)に対する審判の遺脱は刑事訴訟法第三百七十八条第三号前段の所謂審判の請求を受けた事件について審判せぬ違法に該当し又右追起訴状の(イ)(ロ)について二重起訴による公訴棄却の決定をせずに有罪としたのは同法条第二号に所謂不法に公訴を受理した違法に該当することが明かであるこの点に関して論旨第一点は原審の訴因撤回の許容により直に右訴因が本件審判の対象から除外されるものという前提にたつたのであつて肯認し難い見解である。